脳梗塞のリハビリ

目次

脳梗塞のリハビリとは

 脳梗塞発症後、多くの方がリハビリを行うことになります。ですがリハビリは一様に進むわけではなく、その時々で適切な内容を検討する必要があります。

 時間が経つにつれ病態や症状は変化しますし、環境が変わることもあります。また、リハビリの成果があれば、次はその成果の維持とさらなる回復を目指すなど目標も変化していくからです。

 リハビリは大きく「急性期」「回復期」「生活期(維持期)」の3段階に分かれ、それぞれで実態に応じた内容を検討し、実施していきます。

リハビリテーションとは

 リハビリテーション(以下、リハビリ)と聞くと、病院でセラピスト(療法士)と行う「訓練」をイメージしがちかもしれません。訓練は確かにリハビリの柱となる要素ですが、リハビリに対する期待は、訓練だけでは実現できないことが多いです。
リハビリの定義
 このサイトではリハビリを以下のように定義します。
 病気や怪我などにより生じた障害およびそれによる生活の変化への対処活動全般のこと。
 可及的な心身機能の回復や生活能力の再獲得を前提として、当座その能力で生活していくための環境調整をも含んだ概念である。

心身機能の回復

障害のある能力が、元の状態に近づくこと。

  例:片麻痺のために動かなくなった手足が、部分的にでも動くようになる。

 

生活能力の再獲得

機能回復のみならず動作上の工夫や道具などにより、実際に目的を持った動作が行えるようになること。機能回復がほとんど無くても実現される場合もある。

  例:麻痺の部分的な回復とフォームの修正により歩行が行えるようになる。

 

環境調整

当事者の能力では対応が困難な場合に検討される事項全般。

  例:杖や下肢装具などの補助具の導入、手すりや昇降機の設置などの家屋改修、家族や介護サービスによる生活のサポート、誤嚥しにくい食事形態や自室の階下への移動など、生活様式や手段の変更などをさす。

リハビリの具体的アプローチ

 リハビリの具体的なアプローチは、おおまかに「訓練」「実践」「環境調整」の3つに分けられます。

1. 訓練

リハビリ_歩行訓練

 「訓練」は機能回復や維持のためのアプローチです。

 セラピストと行う訓練は、単独で行えない動作に挑戦し機能回復を図る機会となります。これにより、現状を客観的に評価して回復や維持のための計画を立てることができます。

 自主訓練も適切な方法で行えば効果が出ることが多いですが、行える内容に限りがあったり、回復の過程で遠回りしてしまったり、誤ったパターンの動作を学習してしまったりという落とし穴に陥ることがあります。定期的に専門家からアドバイスを受けるようにしましょう。

 病院で行うセラピストとの訓練としては理学療法、作業療法、言語聴覚療法などの種類があげられます。  機能障害や生活上の不利が複数ある場合、それらが相互に関連しており、分野横断的な対応が必要になりますが、保険診療では以下のように区分されます。保険外の領域であっても、これに準じた考え方がベースになります。

※ 例えば、「片麻痺」に加えて、高次脳機能障害のひとつ「半側空間無視」がある場合、歩行の問題では、理学療法において高次脳機能の評価やそれに基づいた訓練が重要になります。
理学療法 下肢(脚・足)や体幹(胴体)の機能回復、起き上がる、歩くなどのより基本的な動きに関する訓練。保険上は、理学療法士(PT)が担当する。
作業療法 上肢(肩・腕・手)の機能回復、着替える・歯を磨くなどの日常生活の動きに関する訓練。保険上は、作業療法士(OT)による訓練。
言語聴覚療法 話す・聞くなどの言葉に関する訓練や、その他の高次脳機能の評価や回復に関わる介入。咀嚼(噛むこと)や嚥下(飲み込み)など摂食に関する訓練も行う。保険上は、言語聴覚士(ST)が担う訓練を指す。

 

2. 実践

お家でリハビリ実践
 「実践」は、訓練によって培った能力を生活の場で発揮し、確たるものとしていくステップです。
 歩行できるようになる、物が握れるようになるといった能力の回復がリハビリの目的と混同されがちですが、その能力を実際の生活で使っていくことがリハビリの本来の目的といえます。

 たとえば、右手の能力が落ちれば左手で代用するというように、能力が落ちた機能の使用頻度は、意識しない限り下がってしまうことがほとんどです。しかし、人が体を動かすために必要不可欠な筋肉は活用しなければ衰えていき、それが動作に影響します。
 特に力が弱い段階では、小さな負荷を何度も繰り返すことも重要で、訓練時間中だけでは必要な回数をこなせないこともあります。自力で何とか手や足が動かせるのならば、安全な方法で手足を使うことが回復を早めることは理論上十分想定されますし、数々の研究でも実証されています。
 動作の学習理論でも、日々の動作に習熟・上達してスムーズに行えるようになるために、適切なフォーム・方法で動作が可能なのであれば、場数は多いほうが望ましいとされています。

 回復期リハビリ病棟では1日3時間もの訓練が行なえます。転院当初はそれだけで疲労困憊ということも珍しくありませんが、それでも10時間以上はそれ以外の時間が残されています。その時間をどう使うのかが、リハビリの成果、つまり機能や能力の変化に大きく関わってきます。
注:状態によっては負荷が多すぎて全身状態に悪影響をおよぼすこともありますし、疲労が嵩み転倒するということも想定されます。また、「訓練のしすぎ」によって筋や神経の機能が悪化することも疾患によってはあるため、「できるだけ運動するのが良い」ということはリハビリ全般の一般論として通用するとも言い難いです。自己判断でどこまででも実践して良い、ということではなく、専門家のアドバイスを受けながら取り組みを持っていただきたいと思います。

実践と自主訓練の違い

 こうした日々の取り組みについて自主訓練との明確な区別は難しく、分けること自体にもあまり意味がありません。一応、「食事などの日常生活動作(ADL)で心身を活動させることは実践、日常に必要な生活動作以外に機能回復や維持のために努力することは訓練」と理解していただければよいでしょうか。いずれにせよ「不自由が残った手足でも使う」という習慣を形成することが重要で、日々必要な生活動作の中に組み込むと確実であると考えられます。ごみ捨てや料理など日課を作ることは非常に有効と考えられます。

 病院のリハビリである程度回復して満足してしまうというケースも実のところありますが、そうした方は退院後に活動量が減少することで、また不自由の多い状態に戻ってしまう傾向があるようです。

 訓練と実践の関係については、ピアノの練習をイメージしてみるといいかもしれません。 スランプに陥っているとき、ひとりで闇雲に弾き続けることが良い成果を生むとは限りませんよね。

 効率的な上達のためには、下記のような流れが王道になってくると思います。

  1. 先生とのレッスンで評価を受ける
  2. 修正すべき点や具体的な改善のための練習プランを提案してもらう
  3. それをもとに苦手な部分の集中練習などの取り組みを行う
  4. 練習で身につけた技術を演奏で活かす

 つまり、これをリハビリに置き換えると、①・②がセラピストとの訓練セッション、③が自主訓練、④が実践、というイメージです。

 

3. 環境調整

リフォーム_バリアフリー

 機能回復で元の生活に戻れるならばそれが一番でしょう。しかし、それだけで解決できない問題がある場合でも、そのまますぐ生活を諦めねばならないとはなりません。自力のジャンプでハードルを超えられなければ、“ハードルを下げる”アプローチを考えてもよいのです。

 前述したとおり、様々なアプローチがあります。

 携行・装着するタイプの補助具  例:杖、下肢装具、車椅子、おむつ、膀胱留置カテーテル
 設置型福祉用具  例:ポータブルトイレ、介護用ベッド、設置型の手すり、玄関スロープ
 家屋改修  例:廊下や水回りへの手すりの設置、段差解消
 家族や介護サービスによる補助  例:家事の分担、生活動作における見守り・実介助、金銭管理の代行
 生活設定の変更  例:居室の移動(階下やトイレの近くなどへ)、外部での入浴サービスの利用、在宅勤務への変更、介護施設でのショートステイの利用
 代償的手段の導入  例:誤嚥しにくい食事形態への変更、経口食と経管栄養の併用

 元々の形、当初の想定とは異なるかもしれませんが、ひとまず生活サイクルを回していくことが上記の「実践」になり、能力の維持やさらなる回復を下支えします。

 能力が足りないとき、諦めて活動を縮小してしまうことがさらなる能力低下に繋がることさえありますから、満足いくスタイルでなかったとしても、まずやってみること、続けることが重要という考え方も持てると良いのではないでしょうか。

 

 付け加えて重要なことは、こうした取り組みについて随時見直しができると良いということです。環境調整や実践の結果として能力が向上すればその維持やさらなるステップアップを検討することもできるかもしれませんし、努力していても結果が伴わない、機能や能力が落ちてきてしまう場合には方向性や方法の詳細を検討する必要があるでしょう。訓練→実践→環境調整という流れがある、というよりは、同時並行的に進めていくと考えるのが成果につながりやすいように思われます。

リハビリの効果

 タイミングや状態などを見極めた適切なリハビリを行うことで、「機能の回復や維持」、「後遺障害がある中での能力向上(代償手段や技術の習得など)」、「廃用症候群などの二次的機能障害の予防・改善」といった効果が期待できます。

機能の回復について

 同じ「脳梗塞」という病名であっても、片麻痺、ディサースリア、失語症、感覚障害など様々な「機能障害(=神経系へのダメージによる症状)」があり、どのような症状があらわれるかや、その程度は人により様々です。怪我にも擦り傷のような軽度のものから全身骨折・意識不明と行った重い状態まで程度が幅広く想定できるように、脳梗塞の状態やその症状も千差万別なのです。一見して似たような症状・能力と感じられても、そうなっている原因は全く別物であることもしばしばです。さらに、年齢や治療の回復具合なども考慮するとそれまで・その先の経過というのは全くのバラバラで、まったく同じ状態の人はおらず、リハビリの進み方や成果にはどうしても個人差が出てきます。

 とはいえ、脳梗塞後の回復の説明としてしばしば使われる図式がありますので、ご紹介します。
脳梗塞のリハビリ_回復の度合い_期待_時間

 一般的に、発症直後は脳のむくみ(脳浮腫)のため、梗塞により機能を完全に失った領域よりも広い範囲の脳の活動が低調になります。そのため障害としては多様で、また重い状態が見て取れることになります。この脳浮腫は時間経過とともに軽減し、その領域には経過によっては活動を再開する部分も含まれます。また、急性期においては意識障害や他の内科疾患の状態などによる制約のために訓練や生活場面でのリハビリが十分に行えない事が珍しくありません。こうした事情により、機能の回復はゆっくりとしたペースからスタートします。治療が開始されても言語や手足の機能が最初から順調に回復するとは限らないのです。
 薬剤治療や時間経過に伴って脳浮腫が改善したり、その他上記諸々の状況が改善してくると「目が醒めて」きて、「自分で心身を使ってみる」こともできるようになります。こうした状態では神経ネットワークの再編成が効率よく進む可能性が増し、筋力回復も起こしやすくなります。そうした状況において、ようやく回復が加速してくる(ように見える)のです。安全にリハビリが行えるかにもよりますが、こうした段階では急性期病院からリハビリ病院に移って集中的に機能回復に取り組むことのメリットが大きくなってきます。
 訓練すれば訓練するほど神経が変わっていく…となれば良いのですが、こうした回復は時間経過とともに収斂していくことも知られています。脳梗塞発症後3〜6ヵ月程度で神経の大きな変化は一段落すると考えられており、この時期が治療段階の区分で言えば回復期から生活期にかけての移行時期に該当します。この段階での機能と能力を予測して、生活の準備をしていくことが回復期の重要な作業になります。
プラトー(リハビリによる症状回復の停滞期)
 脳梗塞を発症後、一定の期間がすぎると、症状の回復率があまり見込めなくなる停滞期がおとずれます。これをプラトーと呼びます。発症から3ヶ月~6ヶ月後に始まるとされ、およそ回復期以降の方があてまるとされています。
 しかし、それ以降の回復が全くないわけではありません。前述したように回復期以降にゆっくり回復することもあります。
 急性期、回復期、生活期、それぞれで適切なリハビリ行うことにより、効果は最大限引き出されます。

 

後遺障害がある中での能力向上

 回復期以降、特に退院後の生活期において「手が自由に動く程度」や「何桁の数字が覚えられるか(記憶力)」などといった「機能」には大きな変化が生じなくとも、食事ができるか、生活を一人で送ることができるかなどの「能力」には成長・向上の余地があると考えられます。
 これは疾病・障害のない方が能力を向上させることと同様の、技術習得や学習という側面が能力獲得には関わっているからです。また障害を受け入れつつ対処するための工夫も多々存在するので、「機能障害があるから生活ができない」ということではありません。一部の高次脳機能などについてはゆっくり回復するとも考えられていますが、正確に能力と機能を区別することは難しいです。
 いずれにせよ重要なのは、現状の自身の力を把握し、日々の取り組みを積み重ねていくことでしょう。

廃用症候群などの二次的機能障害の予防・改善

 寝たきりが長期化してしまうと、心身の機能が著しく低下します。これを「廃用(症候群)」といいます。廃用が原因で、筋肉がおとろえ起き上がれない、関節が動かしづらくなり体の動きが悪くなる・姿勢が悪くなる・着替えが難しくなるなど、(脳梗塞そのものによる変化でない)二次的な機能障害が起きてしまうことがあります。
 脳梗塞発症後に行われるリハビリには、こういった二次的機能障害を予防・改善する効果もあります。

代表的なリハビリの紹介

 脳梗塞発症後に行われるリハビリにはどのようなものがあるか、簡単に紹介いたします。
脳梗塞のリハビリ_内容_訓練一覧

STEP1. 回復のための土台作り

廃用予防

 発症後できるだけ早い段階から、全身状態が許す限りでの廃用症候群の予防や軽減を目的にした介入が不可欠です。具体的には、以下のようなことを行います。

●関節可動域訓練(ROM訓練)

 ベッド上などで簡単に行えるストレッチをします。肩、ひじ、手首、股間、ひざ、足首など、体を動かす上で主要な関節をストレッチしていく内容です。意識が戻らなかったり状況理解が困難で能動的な動作が難しい方でも、できるだけ行っていきます。

●可能な範囲での動作

 全身状態が落ち着いていて、機能も維持されている場合には、過度の安静による衰弱を防ぐための生活動作(食事、着替え、トイレへの歩行など)を行います。

 

意識賦活(覚醒の促し)、その他体調管理

 目が醒めていない状態(意識障害)では、能動的な生活動作や訓練は行えません。リハビリの効果を高めるためにも、覚醒状況がよくなってくることが望ましいです。「賦活(ふかつ)」というのは活力を与えるという意味で、声をかけたり、身体を起こしたりといった手法で目が醒めてくるようであれば、リハビリの面からはメリットがあります。ただし、発症後初期、大きな梗塞、など病状のためにどうしても眼が醒めにくい状況というのは存在します。体調面から負荷を心身にかけないことが必須の場合もあり、どのような介入をどの程度行えるかは医師の判断を要します。
 また心不全や便通異常(下痢など)、発熱などが積極的な取り組みの妨げになることもあり、早期に対処して問題を減らしていくことはその後の経過における中長期的な伸びしろを確保することに繋がります。機能や能力の回復という目的にかなったプロセスという意味で、広義にはリハビリの一部ということができます。

STEP2. 能力向上のためのプロセス

機能回復訓練と生活動作訓練(ADL訓練)

 まず、機能回復訓練とは「障害が生じ、能力が落ちてしまった機能を回復させるための訓練」のことです。
 どのような症状があるかによって内容は様々ですが、麻痺がある部位などを動かせるようになるための運動療法、ペーパーテストやパズル、発声や音読など言葉に関する訓練や、道具を使う作業課題をこなすなどがあげられます。

 対して、生活動作訓練(ADL訓練)とは「生活に必要な動作を可能にするための訓練」のことです。
 生活に必要な動作とは、食事、排泄、入浴、着替えなどがあげられますが、症状によって訓練の内容は大きく異なります。
 たとえば同じ食事動作訓練でも、片麻痺の場合は、椅子に座る、お箸を使うなど身体機能の訓練となりますが、高次脳機能障害などの場合は、食事を認識するところから始まります。

 機能回復訓練と生活動作訓練(ADL訓練)はそれぞれ深く影響し合います。
 たとえば半身麻痺になった方がいるとして、座る・立つなどの離床訓練は、機能回復訓練とも生活動作訓練ともいえ、単純に区切れないことがあります。
 また、麻痺の他に高次脳機能障害などもあれば、それぞれをバラバラに実施するのではなく、横断的に考えての適切な対応が求められます。
 
 「不安定なうちは杖を使って歩く」など、一時的にであっても補助具や代償手段を活用することで動作の回数が増え、機能回復においてもプラスとなることが考えられます。このような場合では「生活動作訓練」に「環境調整」の要素も含まれてきますが、この場合狙いは「機能回復」でもあるわけです。

離床訓練、基本動作訓練、移乗・移動訓練

 離床訓練とは、立つ・座る・車椅子に移動するなどの能動的な動作の訓練です。言葉のとおり「床(とこ)を離れる」ための訓練で、ベッドの枕側を起こすところからスタートします。背もたれがある状態で座る体勢になる、ベッドの端に腰掛ける、立つ、車椅子へ移動するというふうに、様子を見ながら徐々に内容がステップアップします。
 体幹(胴体)の筋力低下を防ぎ、全身体力や意識の覚醒が改善すると考えられており、セラピストの介入(訓練)の時間以外でも、可能ならば行っていきたいところです。ただ、「安全に座っていられる」というのは体力が低下していたり、周囲の状況をしっかり理解できない場合などには思いのほか難しいもので、クッションなど補助的な道具が必要になったり、見守り人員を置いたうえで時間をしっかり決めて実施したり、といった配慮が必要です。

摂食・嚥下訓練

 摂食・嚥下訓練とは、食べ物を咀嚼する・飲み込むといった食べ物を摂取するのに必要な動作の訓練のことです。
 具体的には、実際の食べ物を使わず、口や喉を動かす練習をする「間接嚥下訓練」、誤嚥を起こしにくい形状(トロミを濃く付けた液体、ペーストやゼリー)からスタートして徐々に難易度の高い形状(形のある固体・とろみの薄い液体)へのステップアップを狙う「直接嚥下訓練」などで嚥下機能を高めることや、実際の食事の場で問題となる高次脳機能障害(注意障害や半側空間無視など)を考慮した対応を行うことなどが挙げられます。
 義歯(入れ歯)の調整や口腔内衛生の保持(清潔に保つこと)なども安全に食事を行うための工夫ですから、広い意味ではこれも摂食・嚥下訓練といえます。

排尿・排便関係の訓練

 排泄(排尿・排便)は人が生きていくなかで避けて通れない生理現象ですが、麻痺がある方や高次脳機能障害がある方などは、身体的な機能や一連の動作に対し課題を抱えることがあります。そろそろトイレに行こう、という判断が適切なタイミングで行えないこともあり、特に動作にも難がある場合は間に合わずに失禁してしまうこともあります。
 課題を大別すると「排泄管理(適切なタイミングでトイレに行く判断や、一日の中での排泄パターンを安定させるための対応)」「トイレでの移動・乗り移り動作」「衣類の操作や拭き取り動作など」と整理でき、それぞれに対して「身体機能の回復」「工夫や技術の習得(例:麻痺のない手での動作を定着させる、アラームを活用して定期的にトイレに行く)」「補助具や介助者(例:手すり、オムツ、ポータブルトイレ、ヘルパーや家族による介助)」など様々なアプローチで解決をはかります。

コミュニケーションに関する訓練

 コミュニケーションを図るには「手段」と「内容」が重要になります。
 言語に関する問題は一見して原因やその詳細な状態がわかりづらいため、言語聴覚士などにより専門性の高い評価をまずしっかり行うことが重要です。たとえば「言いたいことが上手く言葉で表現できない」と一口に言っても、「ディサースリア」「発話失行」「失語症」など様々なパターンが有り、対処も異なってきます。訓練自体は音読などの発声練習や、読み書きの練習などバリエーションは豊かで、病棟や自宅、地域などで自主的に行うことも可能です。言語でのコミュニケーションが難しい場合はイラストや図表を用いるなど、言語とは別の「手段」を考える必要があるかもしれません。
 必要性の高いことを伝えようとできるか、伝えられた内容に適切に返答できるか、など「内容」に関わる部分の問題も高次脳機能障害のある方においては頻発します。このようなケースでは、メモを予め用意したり、話題に集中するよう意識したりでカバーできることがあり、訓練や工夫を行います。しかしこのような場合には当人の認識が薄いことも多く、意識的な努力が難しいこともしばしばです。そういったケースでは、簡単な言葉で話す、質問の仕方を何パターンか試す、注意がそれにくいように静かな環境を用意する、本人の言いたいことをまず聞く、文字でも書きながら話す、といったように周囲が配慮することで状況改善をはかります。

その他、生活に必要な動作の訓練(ADL、IADLの訓練)

 「日常生活動作(ADL)」とは生活を営む上で不可欠な基本的行動を指す用語です。食事、トイレ(排泄)、入浴(洗体)、着替え(更衣)、移動(歩行、階段昇降等)、整容(歯磨き、洗顔、髭剃り)、コミュニケーションなどが含まれます。
 最初は手足が動かないなど機能障害が重度で介護を受けるばかりだった動作でも、機能回復や技術習得の過程である程度自力で行えるようになると、毎日の生活がそのまま訓練に変わってきます。最終的には介助不要になれば望ましいですが、どこまで目指すか、自力で行えない場合にどのような対処を取るのかは生活のスタイルなどによっても変わります(同居家族の有無など)。回復期リハビリの一応のゴールは一通りの生活が何とか遅れるようになること、と言えます。
 同じく、生活スタイルなどから必要性が高い場合には、洗濯や料理、公共交通機関での外出など、手段的日常生活動作(IADL)と呼ばれる、より高度な作業についても訓練を行います。

その他の高次脳機能障害に対する訓練

 上記にあがった失語症も含め、いわゆる高次脳機能障害のリハビリは近年特に社会的認知度が上がり注目されています。
 言語の専門的な「評価」に基づいて「訓練」へと進みます。訓練内容は苦手とする課題への対処などが含まれ、障害像によって様々です。機能的・代償的改善を目指すと同時に、病識を高めることも重要視しています。症状によっては、病識の低下が中核となっているものがあり、病気に対する認識や理解を十分に進めることは、高次脳機能の回復に大きく寄与します。 ある程度の自覚があり「気をつける」ことができるようになれば、日常生活の中で意識して対処することがそのままADL訓練になり、更に回復や状況改善の期待が持てるようになります。回復期リハビリ病棟では障害像を看護師や介護スタッフなども理解して、当事者に支援的に関わっていく取り組みがなされています。

監修ドクターのまとめ

 リハビリというと「療法士についてもらう訓練」というイメージがあるかもしれませんが、生活を取り戻していくプロセスの全てがリハビリです。不自由があっても、日々を何とか過ごしながら少しずつステップアップしていけると考えて、その時点でできることに取り組みたいものです。そもそも病気や障害の有無とは関係なく大切なことですが、「現状」と「目標」とを見比べてどうしたらよいのか、前向きなアプローチを考えるのが重要です。

  • リハビリは機能回復、能力獲得と環境調整とを含んだ概念である。
  • 療法士との訓練、自主訓練や毎日の生活の中での実践、周囲からのサポートや補助具どの環境調整を組合せて目標に近づいていくことが重要。

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