脳梗塞による障害・後遺症(脳梗塞の神経症状)

目次

脳梗塞による障害・後遺症について

 医療技術の発達などで脳梗塞の急性期における死亡率は近年減少傾向にあります。その一方で厚生労働省の調査(平成28年 国民生活基礎調査の概況)によると、脳梗塞を含む脳血管疾患は介護が必要になる理由の2位にあがります。脳梗塞は半数以上が片麻痺を発症するなど、障害の発生率が高いことが原因にあげられます。

 脳梗塞は、手足が思うように動かせなくなる、ろれつがまわらなくなるなど、様々な神経症状が発生し得ります。症状の現れ方は実に様々で、たとえば同じ麻痺の症状であっても、片手がしびれる、右半身にまったく力が入らないなど、部位やその程度に違いがある上、症状はひとつに限られず複数の症状を併発する場合があります。

 適切な治療(薬や手術によるものやリハビリなど)を行うことで、回復することもありますし、症状の程度によっては障害が残り後遺症となることもあります。

 


1. 脳梗塞によって麻痺や言語障害などが起こる理由

 なぜ、脳梗塞によって麻痺や言語障害などの障害が起こるのか。そのメカニズムを説明します。
 まず前提として、脳の役割について触れると、「心身のあらゆる機能に関わっている」と表現しても過言ではありません。言語や記憶、感情などの「アタマの活動」は勿論、手足を動かしたり食べ物を噛んだりといった意識的な動作の司令、コントロールも脳に大元があります。また、我々が意識をもっているのも脳活動によるものであり、意識や意図とは別に働く心身の活動、たとえば心臓の絶え間ない拍動や無意識下の呼吸、ホルモンの分泌なども脳に結びつけることが出来ます。従って、その脳の働きが低下すれば、あらゆる心身機能に問題が生じ得るといえるでしょう。
 さて、脳の病気の中でも脳梗塞はメジャーなものといえますが、これは脳血管がなんらかの原因でつまることにより起こります。すると、つまった先の脳血管には酸素や栄養が行き届かなくなる「虚血状態」に陥り、脳細胞がダメージを受けます。完全に血流が途絶え再起不能になった細胞以外にも、その周囲には血流が低下し、逆に言えば今後の経過で活動・機能を取り戻しうる領域(低灌流域、ペナンブラなどと呼ばれます)が存在します。これらの変化が脳機能に影響を及ぼし、様々な障害が発生するのです。
 脳のどの部位がダメージを受けたか、またどれくらい大きなダメージだったのかによって、障害の内容やその程度が変わってきます。場合によってはひとつだけでなく複数の障害が併発することもあります。


2. 日常生活への影響について

 脳は「思考・判断する、体を動かす命令を出す」といった役割をもつ司令塔のような存在であり、「右手を上げる」というような単純な動きひとつでさえ、脳機能に障害があれば困難になることがあります。
 しかし、人が生きていくためには、食事や排泄、入浴などといった様々なことを日常的に行っていかなければなりません。麻痺や運動失調などの障害がある場合、生活に必要な食事・排泄・入浴などの動作以前に、家の中を移動することでさえ困難で時間がかかります。屋外へ出かけるとなると、それ以上の負担があることが予想できます。

 食事などの生活動作自体においても、以前と同じようにすることは難しいことが多いです。、どのような形態の食べ物なら食べやすいか、どのような方法なら行えるかなどといった様々な観点から、実現可能な方法を検討する必要があります。
 もちろん働いている人の場合には、日常生活への動作だけでなく、通勤や業務の実行という点でも大きな変化があります。
 

3. 「障害」と「後遺症」の違い

 「障害」とは、「手足の筋肉に思い通りに力を入れられない」「言語の理解ができなくなっている」「温度や痛みの感覚が失われている」など、心身の「機能」の低下・不調を指す言葉です。
 一方「後遺症」とは、心身機能の障害が「固定した(これ以上回復しない、恒久的な状態である)」と判断されたものをさします。
 心身機能の障害によって生じる「歩けない」「話せない」「食べられない」などの現象が上段で触れた「生活上の変化」にあたり、「能力低下」などと専門的には表現されます。さらにそれによる大きな変化として「自宅退院不能」「復職困難」などが考えられ、それらは「社会的不利」と称されます。
 発症当初は意識もなく手足の動きの反応が全く無かったのに数カ月後には歩いて退院する、というケースが有るように、新たに出現した障害はリハビリにより回復する可能性があります。ですから出現した障害のすべてが後遺症になるわけではないのです。
障害者手帳について
 実は、「障害者手帳」は障害があったとしても、それが後遺症と認められない限り申請出来ません。
 障害者手帳の申請においては、「障害固定」が条件として挙げられており、回復の見込みがある障害に対してではなく、恒久的な障害となる後遺症に対してのサポートと位置づけられているからです。従って、障害固定に至っていると判断されない発症初期には申請ができないのです。

どのような障害・後遺症があるか

 脳の疾患で起きうる症状は多種多様であらゆる心身の活動に関わる、というのは冒頭で触れたとおりですが、なかでも脳梗塞の障害(=後遺症になりえるもの)として広く認知され、リハビリの対象となることが多いものについて、代表的なものを紹介いたします。
 

1. 片麻痺とは

 片麻痺とは、左右どちらか片方の手や足が動かせなくなる症状のことです。

 片方の手の筋肉がこわばり力が抜けない、体の半分に力が入らず動けないといった様々なケースが起こり得ります。梗塞が起きた側と反対側に症状が生じます。

片麻痺について、より詳しく知りたい方はこちらの記事をお読みください。

力が入らないだけじゃない、脳梗塞による“片麻痺”の特徴を知ろう>>

 

2. ディサースリアとは

 「ディサースリア」とは聞き慣れない言葉かと思われますが、発声・発音が上手にできなくなる症状のことで、「構音障害」という概念はこのディサースリアの一部とされています。発声に関連した運動を制御する神経・筋系の異常に起因する(構音=音をつくることを中心とした)発話の障害、と定義されます。呼吸、発音、声、抑揚、滑らかさなど音声のあらゆる側面を含んだものであり、発声と同じ意味合いです。よりわかりやすく言うと、神経や筋肉の問題に起因する、話しづらさや、他者からの聞き取りづらさです。

ディサースリアについて、より詳しく知りたい方はこちらの記事をお読みください。

発音や発話の調子が悪くなる、ディサースリアとは>>

 

3. 感覚障害とは

 感覚障害とは、全身から脳への感覚神経伝達に障害がおこる症状です。「表在覚」「深部覚」「温痛覚」などに分類される様々なタイプの感覚の一部或いは全部が、基本的には左右どちらか片側(病変と反対側)で鈍くなったり、本来生じないはずの異常な感覚が出現したりします。
 
 触っている感覚が乏しくなると物を掴んだり操作したりする作業に問題が生じますし、生活上の違和感のもとです。
 深部感覚の問題により身体の姿勢や動きが自覚されにくくなると、安全な姿勢を保てず椅子から落ちたり転倒したりといった危険が高まります。このような状態では運動の訓練においても困難が生じます。片麻痺と同じ側に同時に出現することが多いため、問題になりやすいです。
 痛みや熱を感じられなくなると怪我や無理な姿勢に適切に対処できなくなります。
 さらに、なんでもないはずの刺激で痛みや熱さを感じるなどの「異常感覚」が生じることもあり、リハビリを困難にしたり生活においての苦痛になったりします。
 脳梗塞などの脳の病気以外に、手足など抹消の神経の問題によっても生じることがありますが、脳梗塞の場合にはより広い範囲で、あるいは他の種類の問題と同時に出現することが多いため、とくに問題となります。


4. 失語症とは

 失語症とは高次脳機能障害の一種で、言語に関する障害です。大きな分類としては聞いた言語の意味が理解できなくなる場合(感覚性失語)と、話したいことのイメージはあるのに言語化ができなくなる場合(運動性失語)と、その混合パターンとがあります。ごく大雑把な理解としては、会話が噛み合わなかったり意味が通じない言葉を発し続けるのが感覚性失語、言葉が出なくてつらそうなのは運動性失語と考えるとわかりやすいでしょう。

失語症について、より詳しく知りたい方はこちらの記事をお読みください。

高次脳機能障害のひとつ「失語症」とは│具体的症状とリハビリ>>

 

5. 意識障害とは

 意識障害とは、朦朧として物事が正しく理解できなくなったり、意識がなくなるといった症状のことです。具体的には、ぼんやりとしていて受け答えができない、周囲が声をかけても覚醒しない、外から揺さぶったり衝撃を与えても覚醒しないなどといった状態になります。
 

6. 半側空間無視とは

 半側空間無視は高次脳機能障害の一種です。左右どちらか片側への気づきが難しくなる症状です。脳の損傷部位と反対側に生じます。感覚障害とは異なり、五感、つまり視覚や聴覚は保たれますが、見聞きしたものが意識にあがりにくくなります。苦手な側からの声かけに気づきにくい、注意書きを読み落とす、机の上の食事が半分残っているのに気がつかない、壁や歩行者にぶつかりやすい、といったことが生じます。
 

7. 運動失調とは

 運動失調とは運動コントロールが困難になる障害です。「力が入らなくて、動かせない」運動障害である運動麻痺とは別の障害なのです。筋肉に力を入れて手足を動かすことはできるのですが、運動時に手足が震えてしまうなどして動きをコントロールできず、滑らかな動きが苦手となります。また、立っていても姿勢保持を上手くコントロールできないために、前後左右に揺れやすく、歩行時の転倒リスクが高いという現象が見られることもあります。
 

8. 同名半盲とは

 「半盲」とは、片方の目が見えなくなったり、両目それぞれの視野が半分に欠けたりするなど、視界のおよそ半分が失われることを広く指します。目の疾患、視神経の障害など様々な原因で生じますが、「同名半盲」とよばれる「両眼の同じ側が見えなくなる症候」は基本的に脳の病変で起きる症状です。右眼・左眼それぞれの右半分または左半分の視野が失われるため、片方の眼でカバーするということができません。半側空間無視と類似した症状といえますが、純粋に視覚の問題であるぶん当事者にとっては自覚しやすく、対処が取られやすい傾向があります。
 

9. 嚥下障害とは

 嚥下障害とは、食べ物などを飲み込む時に必要な機能に障害が起こる症状です。広く言えば食べ物を認識して食べようとする段階から、咀嚼、喉への送り込み、気管の入り口の閉鎖と食道への送り込み、食道への円滑な取り込み、と「飲み込み」前後も含めた問題を指します。固形物が飲み込めなくなる、喉につまりやすくなる、水などが飲みづらくなる、飲もうとするとむせる、飲食物が気道に入ってしまう(誤嚥)、などの状態になります。
 

10. 失認失行とは

 失認症、失行症とも呼ばれます。
 失認症とは、見聞きするものや、触っているものが、何であるのかが認識できなくなる障害の総称です。知っている人の顔を見て誰だかわからない、音や声を聞いて何の音か分からない、周囲の音と区別がつかない事などがこれに当ります。
 一方、失行症とは、運動麻痺は存在しないにも関わらず、複雑な動作や道具の使用が難しくなる行為上の問題が起きます。例えば、ジェスチャーがぎこちない、お箸や歯ブラシの使い方がわからない、お茶を淹れる手順が分からない、便箋と封筒と切手を使って手紙を投函する準備が進められない、といった事がみられます。
 

11. 顔面神経麻痺、眼球運動障害とは

 いずれも顔面の動き・見た目に関わる障害です。
 顔面神経麻痺とは、顔面の「表情筋」と呼ばれる筋の運動が障害されて、思いどおりに動かせなくなったり、口角から飲み物や涎が溢れたりする症状です。
 眼球運動障害とは左右の眼球の動きが思い通りできなくなる症状です。片眼が対象を適切に追いかける一方でもう片方の眼がついていかないようになり、本人からすれば「物が二重に見える(複視)」、まわりからは「目つきが変わってしまった」という状態になります。
 これらはいずれも脳以外の部位による症状のこともあります(末梢性)が、その症状の出方で、脳の異常によるものか、末梢性かの区別がある程度つくことがあります。
  

脳梗塞のタイプ別 神経症状の発生頻度

 脳梗塞はどの血管にどうつまるのかによって主な3つのタイプに分かれます。より、太い血管につまる脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞や心原性脳梗塞)の場合、細い血管につまる脳梗塞(ラクナ梗塞)と比べ、発生する神経症状も多様で重いものになりがちという特徴がみられます。

脳梗塞の症状_障害_後遺症_初発神経症状発生頻度_確率_割合
参考:小林祥泰・編集『脳卒中データバンク2015』中山書店,2015年,P27
 

ラクナ梗塞の主な初発神経症状

 ラクナ梗塞で一番多い神経症状は片麻痺で、患者の53.7%にあらわれます。次いで構音障害が34.2%、感覚障害が11.8%となっています。

アテローム血栓性脳梗塞の主な初発神経症状

 アテローム血栓性脳梗塞で一番多い神経症状は片麻痺で、患者の約53%に症状があらわれます。次いで構音障害が約20~30%、失語が約16~18%となっています。

心原性脳梗塞の主な初発神経症状

 心原性脳梗塞で一番多い症状は、他の脳梗塞と同様片麻痺で、患者の52.8%に症状が現れます。次いで失語が35.5%、意識障害が31.4%となっています。

障害・後遺症に対するリハビリについて

 脳梗塞発症後、多くの方がリハビリを行うことになります。ですがリハビリは一様に進むわけではなく、その時々で適切な内容を検討する必要があります。
 時間が経つにつれ病態や症状は変化しますし、環境が変わることもあります。また、リハビリの成果があれば、次はその成果の維持とさらなる回復を目指すなど目標も変化していくからです。
 リハビリは大きく「急性期」「回復期」「生活期(維持期)」の3段階に分かれ、それぞれで実態に応じた内容を検討し、実施していきます。

 訓練すれば訓練するほど回復されるとよいですが、残念ながら神経の回復は時間経過とともに収斂していくことも知られています。脳梗塞発症後3〜6ヵ月程度で神経の大きな変化は一段落すると考えられており、この時期が治療段階の区分で言えば回復期から生活期にかけての移行時期に該当します。この段階での機能と能力を予測して、生活の準備をしていくことが回復期の重要な作業になります。

 回復期以降、特に退院後の生活期において「手が自由に動く程度」や「何桁の数字が覚えられるか(記憶力)」などといった「機能」には大きな変化が生じなくとも、食事ができるか、生活を一人で送ることができるかなどの「能力」には成長・向上の余地があると考えられます。
 これは疾病・障害のない方が能力を向上させることと同様の、技術習得や学習という側面が能力獲得には関わっているからです。また障害を受け入れつつ対処するための工夫も多々存在するので、「機能障害があるから生活ができない」ということではありません。一部の高次脳機能などについてはゆっくり回復するとも考えられていますが、正確に「能力」と「機能」を区別することは難しいです。
 いずれにせよ重要なのは、現状の自身の力を把握し、日々の取り組みを積み重ねていくことでしょう。「後遺症」とされた障害においても機能の回復があるとして、先をイメージしながらも眼の前の課題に取り組むことは前提となるでしょう。
リハビリについて、より詳しく知りたい方はこちらの記事をお読みください。

監修ドクターのまとめ

「後遺症」というと重い響きのある言葉ですね。定義としては「もう回復しない」と判断された機能障害に該当しますので、回復の可能性を追求する専門家としては、安易にこの言葉を使いたくないという気持ちもあります。一方で後遺症があるとしても生活をすべて諦めるということでは必ずしも無いはずで、何を目指してどのように行動していくのかについて考えていくことが大切です。

  • 脳は心身のあらゆる機能に関わっており、脳梗塞は病変の部位や大きさなどにより多様な症状を引き起こす。
  • 脳梗塞の後遺症は発症後半年以降経過しても残っており、回復の見込みがない機能障害を指す。
  • 急性期〜回復期は「後遺症を作らない」ことを目指すが、長い目線では「後遺症があっても前を向いて生活する」ことも考えたい。

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