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後から痛くなる?対処法は?脳梗塞後に生じる「痛み」について

 脳梗塞等を発症し運動神経の経路がダメージを受けると、左右いずれかの手足の運動が困難になる「片麻痺」という状態になることがあります。 片麻痺には、実は痛みがつきものです。痛みがあるとリハビリを進める上でも問題になってきます。原因を考えると、脳の変化により痛みを感じやすくなってしまう場合と、二次的に筋肉や関節が原因となり痛みを感じる場合とがあります。

 今回は、脳梗塞等の後に発生する痛みについての理解を深め、その対策も含めて解説していきたいと思います。

「痛み」は悪いものなのか?

 少し大きなところから話を始めましょう。

  「病気」というと「痛み」を想像する方も少なくないでしょう。胃腸炎、痛風、心筋梗塞…痛みの強い病気というのは実際枚挙に暇がありません。一方で痛みの生じない、あるいは生じにくい病気というのも存在します。代表例は高血圧症や糖尿病で、このようなタイプの病気は自覚されないまま進行することもあり、注意が必要です。

 もちろん痛みがあればそのほうが良いかと言えばそうではありません。痛みはそれ自体が苦痛であるほか、二次的には痛みが問題で行動や生活に制限が生じることは珍しくありませんし、そうした中で精神的にも大きな影響が考えられます。痛みがあると、人はとても不快に感じます。

 しかし、痛みを全く感じなくなれば良いかというとそれは間違いです。例えば痛みを全く感じなければ、コタツなどにあたりすぎて、重い火傷をしてしまったり、転んで擦りむいたのを放置して悪化したりしてしまうかもしれません。痛みがあるからこそ、何か問題が生じたときに気がついて、それ以上の無理はせずに対処をとれるということもあるのです。痛みのお陰で健康な状態を保っていられる、とすら言えるかもしれません。もちろん、痛くなる原因を取り除いて、痛くなくなるのがベストです。


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痛みの原因~3つの分類~

 痛みの原因は,専門的な言い方では「侵害受容性」,「神経因性」,「精神心因性」の3つの分類に分けることができます。

①侵害受容性疼痛

 これが一番典型的で想像しやすい「痛み」でしょう。

 私たちの身体には刺激を感じ取る装置(「受容器」と呼びます)が身体中に分布しています。生体を傷つけるような刺激を「侵害刺激」と呼びますが、受容器には触覚を受け取るものもあれば、侵害刺激を受け取るものも存在します。この侵害刺激の受容器は皮膚だけでなく骨や筋肉にも分布しています。侵害刺激を受け取る受容器がある部分に侵害刺激が与えられた場合に、その情報が神経を通って脳に到達し、痛みを感じます。

②神経因性疼痛

 神経の損傷・機能障害により生じる痛みのことです。

 脳梗塞等の後に見られるパターンは「視床痛(ししょうつう)」や「肩手症候群」などです。また、脳の病気とは異なりますが、背骨の変形などにより脊髄や脊髄から出る神経根などに圧迫が加わることで生じる痛みもこの神経因性疼痛に分類されます。神経因性疼痛では、何もしていないのに痛みを感じたり、少しの刺激や気圧変化などで痛みを感じる過敏な状態に陥ります。

 薬物治療や外科治療などが試みられていますが、十分な効果が上がらないケースも多いようです。まずは何とかストレッチが行えるように部分的にでも改善できればよいのですが…。なおこれらの症状に対して用いる薬物には副作用のあるものもあり、自己判断で調整することは安易に行なえません。

③心因性疼痛

 精神心理的な要因によって生じる痛みのことです。これといった原因が身体的には存在しません。うつ病や不安障害などに併発することがあります。分類の定義ゆえ、上記の2タイプには分類できない痛みがここにカテゴライズされたりもします。

脳梗塞等の後に生じる「痛み」

 脳梗塞等の発症後、治療が奏功すれば脳の中の回復が進み、数ヶ月以内の経過で(画像検査でわかるような)変化は落ち着いていきます。発症時には痛みがあっても徐々に脳内の腫れなどの直接的な痛みの原因は失われていくはずなのです。しかし、実際には脳がこのような小康状態に落ち着いた後も長期間に渡り、手足の動かしにくさとともに痛みを訴えられる方が少なくありません。

 症状が現れた場合、典型的に見られるパターンに当てはまらないかを判断して対応を取っていくことが重症化や二次的な能力の低下を防ぐために重要と考えられます。ここでは特に代表的なケースを紹介します。

①侵害受容性疼痛

・異常筋緊張による痛み

 片麻痺の際に異常な筋肉の強張りが問題になる場面は多いです。筋肉は本来、神経により適度な緊張状態(適度な張り)を保ち、意図的に収縮させることが出来ます。しかし、脳梗塞等においてはこの収縮のコントロールが困難になります。そして、一部の筋緊張が過剰に高まり(亢進)、一部の筋緊張が過剰に弱まる(抑制)という現象が生じます。

 筋緊張の過剰な亢進により筋肉の柔軟性が失われ血液循環も不良となります。この状態では筋肉への負担が強くなり、痛みを引き起こすと考えられています。柔軟性を取り戻し、血行を改善するストレッチや、周囲の筋肉も含めた力の入り方のバランスを取り戻していく訓練が有効と考えられます。

・関節の拘縮に関連した痛み

 片麻痺を呈し、麻痺した手足を動かさない時間が増えてくると、関節は固まってきます。関節が固まりつつある/固まりきってしまった状態を「拘縮(こうしゅく)」と呼びます。拘縮を生じてしまうと、固まった関節を無理に動かそうとすることで痛みを生じます。しかし、痛いからと言って動かさなければ、関節は更にそのまま固くなってしまいます。

 このような悪循環が生じないよう、自身でも可能な範囲で関節や筋肉を動かしたり伸ばしたりすることで関節の機能を保持することが必要です。

・亜脱臼に関わる痛み

 腕の麻痺が生じると、肩の関節の「亜脱臼(あだっきゅう)」を引きおこすことが多いです。肩関節は腕の骨である「上腕骨」が胴体の「肩甲骨」に収まる形になっていますが上腕骨を支えている筋肉に力が入らなくなることで重力に逆らって上腕骨を引き上げておけなくなり、徐々に外れていくのです。この亜脱臼の状態で、腕を自分で動かしたり他人に動かされたりすることで、痛みが生じます。

 亜脱臼の程度が強い場合は三角巾を使用して腕を上から吊り上げ、進行を予防します。また、高い机や車椅子の肘掛けの間に渡した台などに腕を乗せるような工夫も有効です。肩の筋力や感覚が戻ることが根本的な解決になると考えられるため、訓練も重要です。ただその訓練のためには痛みを取り除く必要がある、という事態もしばしばです。状態に合わせた総合的なアプローチが重要です。

・インピンジメント症候群

 これも肩の症状です。「インピンジメント」とは、“衝突・挟まる”という意味を持ちます。

 インピンジメント症候群とは肩をあげて動かすとき、筋肉や「滑液包(かつえきほう)」と呼ばれるクッション的な役割を持つ組織が、肩関節内で骨と骨との間に“挟まる”ことで痛みを起こす現象です。脳梗塞等の後に限らず起きる可能性がある状態なのですが、片麻痺のために筋緊張のアンバランスがあると、このインピンジメント症候群が回復過程で引き起こされやすくなると考えられます。

 対策としては、やはり無理に動かすのではなく、より適正で痛みを生じにくい動きをリハビリの中で獲得していくことでしょう、

②神経因性疼痛

・視床痛

 脳の「視床」と呼ばれる部分が損傷することにより生じます。視床とは脳の深部に位置している神経細胞が集まって形成された核で、感覚神経の中継地点としての役割があります。この部位が損傷されると感覚障害が現れることがあります。視床は脳出血を発症しやすい部位でもあり、視床出血により感覚障害に悩まされるというのは典型的です。この視床の病変、そして視床出血の時に生じる痛みを『視床痛』と総称します。

 すべての視床病変で生じるわけではありませんが、痛みを感じる方の訴えは概して強く、それでいて「触ったものがわからない」「自分の手や足がどこにあるかわからない」などといった感覚の重度な障害も伴うため、身の置き所のない状況に陥ってしまうようです。脳梗塞等の発症から遅れて生じることが多く、注意が必要です。

・肩手症候群

 片麻痺を生じてしまった方の麻痺側の肩・手に痛みや熱感を伴う腫れが生じる状態で、触れられたり動かされたりすることで痛みが強まります。交感神経の過剰な活性化に関っていると考えられています。

 リハビリのためには麻痺側の腕全体をしっかり動かしていきたいところですが、痛みのために十分な訓練やストレッチが行えないというジレンマに陥ります。脳梗塞等の後、時間が経ってから生じることが多く、症状が出てきた場合には二次的に運動機能の障害が強まることがあるため注意が必要です。

 手の腫れや熱感などから発症を早く見つけて対処を取っていくことが重要で、特に初期では医師の判断でステロイド薬の内服治療なども積極的に検討することがあります。


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監修ドクターのまとめ

 痛みそのものの苦痛だけでなく、痛みにより心身の活動量が減ってしまい、一度回復した能力をも失ってしまうことが大きな問題になります。脳梗塞後について言えば「対処により避けられる痛み」も多々存在するので、大雑把にでも「起きうること」とその対処法を知っておくことが重要と思われます。

  • 「拘縮」「亜脱臼」などは予防可能。
  • 「視床痛」「肩手症候群」は早期対処が重要。
  • 頻回のストレッチなど、回復期などにできていた予防介入が生活期の在宅療養に入って中断されてしまい悪化することもある。

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